2009年05月06日

『禁じられた青春』上中下…沼正三 

本との出合いはさまざま。
この本との出合いは表紙の絵を描いた異端の画家、山本じんの
昨年福岡市で開催された個展がきっかけでした。
背中の皮膚を破って植物が生えた少年の背中…。
いかにも沼正三の作品に似合っています。

作者の沼正三(昨年死去)は、
あの名高い異端の小説『家畜人ヤプー』を書いたといわれる謎の多い人物。
その人の自伝です。

なぜこの本を読む気になったのか。
それは彼が大正15年という年に福岡に生まれ、
昭和の歴史そのものを生きた人だから。
沼の醒めた視線でとらえられた
戦前の福岡、戦中の満州、戦後の福岡の真実に
触れたいと思ったからでした。
それはわたしにとって知るべき真実でした。

戦前の沼の一家は父親の事業の失敗で困窮生活を強いられ、
福岡市内を転々と移り住みます。
昭和14年には福岡商業高校に進学。
ゲートルを足に巻いての通学が始まります。
ゆがんでいく時局に流されながらも、
文学少年で活動写真好きだった沼少年。
高校を卒業すると満州特殊鉄鋼株式会社に就職し、日本を離れます。
満州で見た日本人の現地の人々に対するすさまじい蔑視。
入隊するために満州から戻ると、
兵隊としての訓練が待ち受けます。
そのころ福岡の街は空襲され、
今の博多リバレインの場所にあった、
十五ビルの惨状もこれまで聞いたこともない悲惨さで語られます。
戦後、山崎内相は全国地方長官へ指令し、
占領軍兵士のために慰安施設の設置を指示します。
生活の手段のない戦争未亡人などがそこで働いたといいます。
そして孤児たちも不幸極まりない境遇にありました。
生きるために万引きなどをしてつかまり、収容された施設は地獄。
施設から学校へ通っても、
白い目で見るのは父兄や教師だったというのです。
貧しい若者たちが戦死し、
たとえ生き残っても弱者には悲惨な状況が待ち受けていました。
戦後、60年以上経っても
弱者は今もって弱者です。

作者が異端の作家なだけに
インモラルな面が取り上げられがちな自伝ですが、
ここには一つの正直な
それゆえ真実にあふれた昭和の歴史が描かれています。

かわいい『禁じられた青春』は 幻冬舎から文庫で出ています。上中下の全3巻。
  ↓
 ★『禁じられた青春』…沼正三


posted by 理乃 at 13:00| Comment(0) | ★図書室 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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