
現代語訳 舞姫 (ちくま文庫)
太宰府を訪れた明治の文豪ということで
森鴎外の「舞姫」を読みました。
漢文調でわたしには読みづらい鴎外の文章なので、
井上靖の現代語訳で読むことに。
主人公の太田豊太郎には鴎外自身が色濃く投影されています。
父母の教えに忠実に勉強し、
あまりに優秀で神童と呼ばれた豊太郎。
官となってからも役所に忠実に生きてきました。
ところが官費で留学した自由都市ベルリンで自我が開放されていきます。
そんな時、貧民窟に住む清らかな少女、エリスが泣いているのに出くわします。
仕立て屋の父が亡くなり、どうやら身売りをしなくてはならないよう。
お金を用立てた豊太郎とエリスは次第に接近します。
そんな豊太郎を仲間たちはそしり、留学費は取り消され、
自力で生活しなければならなくなり、
新聞社の通信員となりエリスの家に同居することになります。
通信員として暮らしていたある日、
別の仲間から官の仕事に誘われ、ロシアで通訳として目覚ましい働きをします。
帰国を勧められ承諾した豊太郎ですが、
すでに妊娠していたエリスに告白もできず、
熱を出して倒れます。
一心に看病するエリスに友人が帰国の旨を告げると
エリスは発狂するのです。
だがエリスの家にお金を置いて去っていく豊太郎なのでした。
愛によってエリートコースから離れて生きていくはずだった豊太郎、しかし結局エリートコースに戻っていくのです。
ここまでは小説のお話。
現実のエリスは鴎外を追って日本へやってきます。
でも1ヶ月ほどの滞在ののち、周囲の説得に折れ、帰国します。
鴎外はその後勧められた女性と結婚。すぐに離婚。
長年独身でしたが、その後再婚した女性は写真だけを見て結婚を決めました。
豊太郎の置かれた立場によって成就しなかった純愛。
自らの恋愛を貫くほど明治は自由ではありませんでした。
エリスにしたら、なんてひどい男なのでしょう。